日曜の朝。
今日は卓也と付き合って3か月記念日だ。
とても大好きだった卓也に、告白された時は、夢かと思ったぐらい嬉しくて、一緒にいられるのがとても幸せだ。

「なー、礼奈。今日の夜、何食べたい?」

卓也の部屋でくつろいでいると、後ろから私を抱きしめるように腰を下ろした卓也。

「んー……」

卓也は、何が食べたいかな……?
卓也はお肉が大好きだから、お肉かな?
あ、でも昨日食べたから今日はお魚の気分かな?
でもでも、もしかしたら中華かもしれない。
悩んだ挙句、静かに口を開いた。

「卓也は?」

チラッと卓也を見ると、卓也は陽だまりのような優しい瞳で私を見ていた。
なんだか恥ずかしくなって、思わず目線を逸らした。

「俺は何でもいいよ。礼奈決めてよ。最近俺ばっか決めてたし」
「……そうだなあ……」

ここで、卓也があまり気分でないのを選んで『こいつとは価値観合わないな』なんて思われたら嫌だな……。

「んー……」

一生懸命考えを巡らすが、何て答えるのが正解かわからなくて、言葉が出てこなくなる。
そんな私の様子を見た卓也はため息をついた。

「それじゃあ、お寿司でも食べに行こうか」
「……うんっ」

お寿司なんて選択肢なかったから、何も言わなくてよかったな。
それにお寿司は私の好きな食べ物だし、多分卓也は知らないだろうけど、嬉しいな。

「今日はどこ行くの?」
「今日は遊園地」
「本当? 嬉しいなー!」
「ったく、礼奈に行きたいとこ聞いても『どこでもいい』の一点張りだから、すっげー悩んだんだぞ」
「えへへ。ごめんごめん。決めてくれてありがとうね」

だって、卓也に嫌われたくないんだもん。
……って言ったら、卓也は重いって思うかな?

「ほら、準備早くしろよ」
「うん……っ!」

卓也に手を引かれ、電車を乗り継いで遊園地へ向かう。
休日の遊園地には、溢れんばかりの人でごった返していた。

「うわ~…すげーな」

心の底から出たのであろう言葉に、私もゆっくり頷く。
そういえば卓也って、人ごみダメって付き合う前に言ってた気がするけど……大丈夫なのかな?
私はここの遊園地が好きで、友達ともよく来るけど、そもそも卓也が外に出かけようっていうこと自体珍しい気がする。

「ほら、どれから乗る?」
「んっとね~! まずはあのジェットコースター!」

優しくエスコートしてくれる卓也の手を握りしめた。
夜にまた聞けばいいか、そう思って私は今を楽しむことにした。

* * *

「楽しかったね~」
「そうだな」
「ねえねえ! 最後に観覧車乗りたいな!」
「……じゃあ、乗ろうか」

卓也の手を引っ張り、すっかり暗くなった園内に輝るイルミネーションの中を進んでいく。
30分ほど並んで、やっと観覧車に乗ることができた。

「わ~綺麗だね」

まるで宝石箱をひっくり返したかのように煌めく園内。

「卓也、今日はありがとう。とっても楽しかった」

そう言うと、卓也は優しく目を細めた。
私は卓也の隣に座り、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。

「卓也って、遊園地好きだっけ?」
「……」
「あ、嫌だったとかじゃなくて、卓也インドアのイメージがあるから、遊園地苦痛じゃなかったのかなって……」

チラリ、様子を窺うように隣に座る卓也に視線を送る。

「……礼奈が好きだからだよ」
「え?」
「礼奈、無理してるでしょ?」

予想もしていなかった言葉に、私は固まる。

「俺の好きなものに合わせようとして、自分の意見言わなかったり、俺の意見に合わせたり、何かを決める時、礼奈はいつだって俺の顔色を窺ってる」
「……」
「でも、それって絶対にいつか辛くなると思うんだ。相手に合わせる恋愛なんて、恋愛じゃないよ。お互いの趣味や嗜好を理解したうえで、それを共有していくのが付き合うってことじゃないのかな?」
「……卓也……」

どこか寂し気な表情をする卓也に、申し訳なさがこみあげてくる。

「三か月付き合ってみて分かったんだ。俺と礼奈は間違いなく、真逆のタイプ。礼奈はアウトドア派で、俺はインドア派。好きな食べ物も俺は肉で、礼奈は魚だろ? でも好みが違うだけで好きな気持ちに変わりはない。」

それは数学の公式を言うように断定的な喋り方だった。

「だから礼奈、我慢しないでよ。礼奈の好きな事、やりたいこと、もっと教えて? もっともっと礼奈の事が知りたいんだ。俺は、これからもずっと礼奈といたいから」
「……た、くや……もしかして、今日って私のために……?」
「礼奈の友達に礼奈の好きなもの聞いたんだ。お寿司と、遊園地が好きって言うの聞いたから、礼奈が何も言わないならその二つに行こうと思って」

卓也のその言葉に、私は思いきり卓也に抱き着いた。
卓也は優しくそれに答えてくれる。
卓也の腕の中が好きで。
優しい声が好きだ。
ほのかに香る柔軟剤の香りが好きだ。
何より、私の事を想ってくれる卓也が、大好きで、大切な存在だ。

「卓也、ありがとう…っ」

震える声に気が付いた卓也は、私を抱きしめる力をさらに強くした。
私はこの人を好きになってよかった。
そして、これからも彼といろんなものを共有して、愛し合っていこう。